2004年03月25日

レース比較

3つのレースを比較すると、まず高橋の出場した東京マラソンが一番過酷な状況下であったことは否めない。真夏のような暑さと強風の中、高低差のあるコースで体力が奪われたことは間違いない。それに比べると大阪は逆に寒すぎた。選手にとっては熱いよりは寒い方が走りやすいだろうが、あまり寒すぎると身体が固くなる。一番天候に恵まれたのは名古屋で気温16度〜19度と少し暑いがマラソンには比較的良好な気候であった。もうひとつ名古屋はコースの高低差がほとんど無いとことも恵まれている。

さて、東京での高橋の敗因は調整ミスの一言に尽きる。本来ならば、東京で失敗している以上、最後の名古屋にも出場すべきであったが、大阪でのライバル達の不甲斐なさに油断して、伏兵土佐を甘く見ていた感もある。当然、オリンピック本番のことを考えれば、時期的に近い名古屋など危険を冒してまで出る必要はないと考えるのもまた納得がいく。なぜならば、最初に書いたように、代表選手は陸連のさじ加減で出場さえしていれば、誰でも選ばれてしまう可能性があるからだ。実際に発表された当日、小出監督が過去の実績も考慮してという一文があったから、あえて回避させたと言っているように、陸連の規定はレースの結果だけを重視すると言う風には取れないからだ。そして過去にも結果よりも実績を重視して選考した結果物議をかもしたのは、今回が初めてではない。陸連も認めているように今回はレースの結果だけをみた選考だった。

さて、後のインタビューで、選考委員会のメンバーの一人だった増田明美が、本当は高橋を選びたかったが、他に代表入りしたメンバーを落としようが無かった=それだけ素晴らしいレースをしたと言っていたが、本当にそうなのだろうか。陸連のスタンスの曖昧さと、本当に公平な決定がされたのかと言う疑念は拭えないものがある。先に競馬に準えて今回のレースを検証したいと書いたので、少しその方向で考えてみよう。

競馬でレースの勝敗を考えるのは、何も馬券を買う人たちばかりではない。当然レースとして成立しなければならないので、そういうレースを組むための主催者や、あるいは入賞してカイバ料を稼ぎたい馬主、あるいは調教師など、それぞれの立場でのものの考え方と言うのがある。今回のオリンピックは参加することが名誉だから、競馬で言えばG1、それも一生に一度しか出られないダービー(他の3大クラシックもそうだが)並みのものである。

実際にダービーのようなレースに出るためにはそれなりの実績が伴っていなければならず、それまでに獲得賞金が足りない馬は、今回のように出場をかけたトライアルレースに参加しなければならないのだが、高橋クラスの馬であったなら当然その辺はクリアしているわけで、無条件に出場できるはずだ(もっとも牝馬だから無理とかいうのはあるかもしれないが・・・)。

本来オリンピックのためのトライアルである以上、その選考は当然オリンピックを念頭においたものでなければならない。ここで次のレースを考えると、陸連はいわばJRAであり、選手や監督はジョッキーや調教師、世論が馬券を買うオジサンという図式になるに違いない。よって主催者である陸連はレースが成立しさえすれば誰が勝ってもいいわけで、そのレースによって今後が決まる選手・監督が当然一番の考えどころである。果たして一般人の我々は次のレースを考えるにどうするか。当たらなければ意味が無い馬券である以上は、前走あるいはそれ以前の成績が書いている馬柱とにらめっこしながら予想を立てるのである。そんなことは当然だ。

そこで次に本命視される馬を考えてみると、
東京で走った高橋は最後の直線で大きく離されはしたが、道悪の不良馬場で2着、大阪の坂本は前半スローペースで最後の直線勝負に持ち込み、最後は瞬発力の差で圧勝。また坂本は平均からやや遅めのペースの中、二の足を使ってこれまた圧勝。この状況の中での判断となる。
あくまでトライアルである以上、高橋の走りはいわば本番への叩き台であって、その走りだけを考えるわけにはいかない。また坂本の力走は、ライバルが相次いで落脱していった部分もあってフロックの可能性もある。もちろん寒地でのトレーニングが功を奏したのだろうが、逆に他のメンバーの不甲斐なさも目に付いた。土佐が勝った名古屋マラソンは残されたメンバーと言うこともあってか全体的に小粒である。

ここでレース全体を俯瞰してみると、東京はハイペース、大阪はスローペースの上がりの競馬、名古屋は平均ペースながらいわばオープンクラス。名古屋の土佐と比べると高橋は最初から2kg以上のハンデを背負ったレースだと言っても良い。

陸連は最後は高橋が坂本かでもめた(実際はもめてもいないようだが)、レースを検証する上で、そのときのコンディションを考慮に入れなければ、その時点で不公平になってしまう。最速タイムで優勝した土佐が落とす理由が無いのでそうそうに内定してしまったようだが、勝負事に限らず印象は近い方が有利に働く。
実際に土佐の代表を決定付けたのは、田中とのマッチレースで一度は離されたのを挽回したということに尽きる。実はラップタイムを見ればわかるのだが、土佐はスタートからほとんど17分後半から最後16分台にはなっているものの、終始このペースで走っていただけなのである。

競馬では仕掛けどころが非常に重要である。直線バテないスタミナがあれば騎手は苦労しない。3角手前からまくりにいってそのままゴールまで突っ走ればいいだけである。しかし名古屋の土佐はそうではない。一見したところでは猛烈なスピードで追い上げたような錯覚に陥るが、実はマラソン経験の少なかった2位の田中が仕掛けどころを間違えて、後半勝手に落ちてきただけである。この二人のタイム差が驚異の逆転に繋がったわけだが、私から見れば田中は土佐の激走を演出しただけである。前回優勝者の大南がレース中盤から早々に置いていかれたのも幸いした。高低差が少なく、風もほとんど無い絶好のコンディションの中、終始自分のペースで悠々と走り続けたのである。たしかに至近距離からバイクで追った土佐の表情は苦しげで、同情を誘う部分すらあった。しかし、悪条件の中、前半から30km地点まで、5km16分台のラップを刻んでいた高橋に比べればあまりにも楽な状況である。問題は田中がスパートをかけたときについていけなかったということだ。これは結局レース展開云々ではなくて、ただ必死に走った結果がこうなっただけで、実際のレースで駆け引きができるレベルではない。そう考えると日本人と言うのはつくづく浪花節だと思う。もし今回の代表候補メンバーでもう一度走らせたとしたら、高橋が単勝一番人気になるのは当然である。大阪の坂本はまだ発展途上であり、成長も見込めることから人気になるに違いない。

以上、競馬的な発想ではあるが、私なりの結論として、今回代表にするべきは野口、坂本、高橋の3人であったのではないかと思う。ただ勝負事というのは何が起こるかわからないものである。もちろん高橋が出ればメダル間違いなしと保証なども出来ない。もし次のレースで馬券を買うとしたらこうなるだろうなというだけである。よって決まった以上は、今回選ばれた3人を応援したいと思うし、結果がどうあれそれを受け入れるべきだと思う。

それと土佐が代表に決まったことに対して、脅迫めいた電話やメールが寄せられたと言うことだが、こんな馬鹿な真似は絶対にやめて欲しいと思っている。選手達はみんな夢を持って一生懸命頑張ったのだ。それを称えないで、あたかも犯人扱いするのは人間として非常に程度が低いと言う他ない。それと陸連はもっと基準を明確化するべきである。選考レースが多いと思うなら、資金よりも選手たちの事を考えて対象の数を減らしても良いし、時期が迫っている時に無理にレースに出さないように実績のみで判断すると規定を変更してもいいはずだ。今回の選考の不信感は陸連に対してのものであって、これは今までも何度も同じ事をくりかえしてきた。このことが今後も生かされないのであれば、全然勉強しない組織だと謗られてもしかたないのではないだろうか。

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