2004年08月18日

近所迷惑

東京に引越して来てかれこれ半年になる。今までもいわゆる共同住宅に長年住んでいたので、特にマンション生活が親しめないわけではない。子供の頃はずっと団地住まいで、下の住人が神経質な人だったからよく苦情を持ち込まれた。昔の住宅だからちょっとした物音でも階下の住人にはたまらなく五月蝿い騒音として聞こえていたのだろう。特に騒音は必ずしも上階の家のものとは限らず、鉄筋を通して全然別の場所に響いたりするからやっかいだ。今のマンションでは、隣や上階の物音は特に壁に何かを打ちつけるようなもの以外はほとんど聞こえない。

管理組合からの連絡事項などが、エントランス近くの掲示板やエレベーター内の掲示板に貼りだされるわけだが、先日来、夜間の洗濯物干しについては自粛するようにとの張り紙がされている。理由はバルコニーに夜間干した洗濯物が風に煽られ欄干などにぶつかると、自分では気にならない音でも近隣住居者にとっては、たまらなく不快な騒音として睡眠の妨げになるというものだった。いかにももっともな理由だが、この張り紙を見たときにとても複雑な心境に駆られた。というのも隣の家が毎晩のように洗濯物を干しているのを知っていたからである。

今住んでいるマンションは少し変わった外観で、我が家と隣は物干し用バルコニーが、少しせり出した恰好で仕切りの薄い板を挟んで隣り合っている。間取りは左右対称のまったく同じものなので、その隣の一段引っ込んだところがリビング用のバルコニーと2段構造になっている。特に家の場合、物干し用バルコニーは寝室に面しているので、もし騒音を感じるとすれば、うちが一番感じる場所だろうということになる。

毎晩のように干しているのを何故私が知っていたかと言うと、寝室の隣の部屋もまたこのバルコニーに面していて、そこからは直接出られないのだが、私はいつもその部屋の窓から顔を出してタバコを吸っているからである。

このマンションに引越したときにうちは隣近所に引越しの挨拶をしていない。実を言うとうちがしていないだけではなくて、うちの方に挨拶しにきた家も無い。新築の一斉入居だったので入居の時期が1ヶ月から2ヶ月くらいの差があったため、挨拶のタイミングが難しかったというのもあるのだが、マンションの間取りや部屋自体の価格が各住居で違っているため、お隣さんと言ってもそれほど親しみを感じなかったというのもある。お互い探りあいみたいなところもあったのだろうが、結局は隣の家の人の顔も良く分からないまま現在に到っている。

ただそのバルコニーが隣り合っている渦中の家だけは挨拶に来たのだった。理由は風の強い日に、非常の際には非難口となるその薄い仕切り板の下の比較的広い隙間から、東京都推奨のでかいゴミ袋やらベランダ用のサンダルなどが思い切りこちらに侵入していつの間にかうちのバルコニーを占拠したために、まあ謝罪を兼ねてということだったのだろう。こちらとしても挨拶に来られた以上お返しはしなければならず、カミサンと連れ立って後日挨拶したわけだが、最初に向こうが来た時にその家の奥さんが入院していて病院の帰りだということを聞いていた。もしかしたら妊娠でもしているのかと思って確認したところ、そうではないという返事だった。あまりつっこんで話を聞ける間柄ではないので「そうですか、それは失礼しました」というに留まったが、妊娠でなければ大抵は病気か怪我だろう。そのお隣さんはうちと同じく夫婦二人暮らしのようだった。年齢は私よりも若干若い感じがしたが、いまだにその奥さんの顔を見たことは無い。

タバコを吸う時に洗濯物を干していると風の関係で、時に嫌がらせをしているかのように思われるかな?などと考えたこともあったが、その洗濯物の音がうるさいと思ったことは一度も無かった。うちのカミサンはその洗濯物の存在自体を知らなかった。むしろ今のところは線路際に立っていて、今まで新線のための突貫工事をしていたから、その騒音に比べたら洗濯物の音などかわいいものだったろう。そもそも神経質なうちのカミサンが気付いてもいなかったのだ。

後日掲示板やエレベーターだけでは足らないと思ったのか、私の住む階のエレベーター前にも同じ張り紙がされていた。私は気になってあるとき下の階も覗いてみたがその張り紙は無かった。お隣さんが同じように確認したかどうかはわからない。だが、その張り紙がされてから夜間の洗濯物は無くなった。

昼間職場で働き、仕事帰りに奥さんの見舞いに行き、その後帰ってきてから洗濯をし、それを夜に干すという生活はある意味同情するところがある。一人暮らしのようなものだから、本当ならそれほど洗濯物など無いはずだが、恐らく入院している奥さんのものを洗っているではないかと思っていた。ただそれはこちらが勝手に想像していることで、洗濯物を覗き見たことも無いので断言は出来ないが、それでもそう言った事情を知っているかどうかで、その音に対する気持ちも大きく変わるだろうと思うことだ。確かに浴室乾燥機もついているから何も外に干す必要は無いだろうともいえるが、それを使えば必ずガス代がかかる。そこまでこちらが考える必要は無いのかもしれないが、入院費やマンションのローンやらと考えれば少しでも節約したいというのもあるだろう。

誰が夜間の洗濯物に対する苦情を管理組合の方に言ったのかはわからない。そしてその張り紙が隣の家の洗濯物をさしているのかどうかも定かではない。ただ状況判断でお隣さんが疑うとすれば、うちが一番怪しいだろうと思うだろう。だがその苦情はうちのものではないですよとわざわざ隣に言いに行くのもおかしなことだ。実際に誰かが苦情を言ったから管理組合が動いたのだ。
その張り紙を見て迷惑をかけてすまなかったと思っているか、あるいは面白くないと思っているか、お隣さんの心中は量れない。密告したのが誰かと訝っているかもしれないが、それもまた本人の口から聞くことは出来ない。
ただ言えるのは夜間の洗濯物がなくなったことと、もしもそれが原因でうちとお隣さんの関係がギクシャクしたとしても誰も責任をとらないだろうということだけだ。

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